【1】捨てる神あれば、拾う神あり

彼女と別れ話をしていた場所は、田舎道だった。

 

車を止めていたところは、少し開けた場所ではあったのだけれども、
山際には高い壁が、反対側には沢が流れ、車も数時間に1台通るか、通らないかという場所だった。

 

近くには●●峡という峡谷があって、
密かに自殺の名所として知られていた。

 

彼女の車を降りた私は、このまま死のうと考えた。

 

もう人生は終わりだと思った。
こんなに優しい恋人はもう自分の人生に現れないと思ったし、大好きな人と笑顔になることさえできない関係に、
こんなにつらい思いも二度としたくなかった。
そして何より自分は気持ち悪い人間で、生きていく必要もないと思った。

 

雨に濡れながら、●●峡へと続く山道の道路をとぼとぼと歩いた。
小さな街灯が、点滅しながら等間隔に道を照らしていた。
足元には、雪の固まりがあちらこちらにあった。

雨に濡れた雪に滑って、こけた。

聞こえるのは沢の音、そして雨が草木に打ち付ける音で、
山も泣いてくれているかのように感じた。

 

私は泣きながら、今までの事を考え、自分の行動を恥じた。
親へ謝罪や、大好きだった彼女の事などを考えながら座り込んで泣いていた。
雨が、雪に変わった。

 

 

気付くと、空中で雪が積もり始めている。
驚いて目を凝らすと、何かの屋根のようだった。

立ち上がって歩いて近づいた。
お堂があるようだった。

 

ひとまず、そこまで行ってみることにした。
一体、今何時だろう。
どれくらい歩いたんだろう。
遺書も書かなければ。

お堂に付いた私は、そう思い、リュックから濡れたノートと携帯を出した。

携帯を開くと、Nと写った待ちうけ画像が表示された。
笑顔の2人だったけれども、もうその笑顔は戻らない。

 

みるみる、目に涙があふれ、視野を遮った。
すると突然、電話がかかってきた。
T姉さんからだった。
その電話を、私は無心で取っていた。

 

 

「もしもし。」

T姉:「もう寝てた?あれ?今外?何してるの?」

「・・・死のうとしてる。」

T姉:「は?」

 

Nとの先ほどの経緯と今の思いを、泣きながら伝える私。
彼女は

 

T姉:「そこにいて。絶対に動いちゃダメだからね」

 

そう言って、電話をつないだまま、車で迎えに来てくれた。

 

T姉さんは、私が居たお堂のことを知っていた。
以前家族で、ハイキングに来たことがあるらしい。

その時に、目にしたことがあると言っていた。

 
迎えに来てくれた彼女は、真っ青な顔をしていた。
いろいろな意味で、恐かったことだろう。

 

 

 

そして彼女の家に連れて行ってくれて、彼女の布団で私を寝かせてくれた。
布団の中で、遠くで彼女のお母さんと彼女が、私の家に電話をしてくれている会話を聞いた。
上手くはぐらかしてくれていた。

近くに置いてくれていた自分の携帯を開くと、Nからの着信履歴でいっぱいだった。

その画面を見ている間に、充電は底をついた。

 

私の手の平には、たくさんの擦り傷ができていた。

手足の先は冷たくて、ほとんど感覚がなかった。

 

本気で死ぬつもりだったのだと、T姉さんも感じていたのだろう。

私のために、T姉さんは部屋を暖めてくれて、一晩傍にいてくれた。
彼女に心配をさせまいと私が寝たふりをしていると、彼女も眠りについていた。

顔を見ていると、彼女の目から、涙がこぼれていた。

 

 

 

明日は、帰らねばなるまい。

 

友人の布団で寝るということ、
Nとは違う人の香りに包まれていることが、とても不思議で、またいろいろな罪悪感だったことを覚えている。




つづく。



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